[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ネタバレになるといけないので、今回の映画のストーリーについての詳しい説明は避けるけど、大まかに言えば、「ルーサーとの戦いの後、故郷の惑星クリプトンに戻ったスーパーマンが5年振りに地球に帰還(リターン)した物語」だ。
結論から言えば、「面白かった」。内容の出来、特撮技術の素晴らしさというのもあるが、僕が特に「面白い」と感じたのは、「さりげない場面に宿る、深い演出力」だった。
特撮映画の宿命として、派手な特撮シーンに目がいってしまうのは仕方がない。しかしこの映画の場合、それとは真逆の「さりげないシーン」にこそ心血が注がれている事がよく判る。見逃されがちなシーンではあるが、それが理解できた時に、この映画の奥の深さが何倍にも味わう事ができるだろう。
ネタバレになるといけないので、僕が特に驚いた1シーンだけ紹介しよう。
アメリカのとある田舎、スーパーマンの育ての親(地球人、母親)が住んでいる。
夫に先立たれ、5年前、息子のケント(スーパーマン)が故郷の惑星に戻って以来、ずっと一人暮らしを続けている。
ある夜、空から轟音が響いてきた。母親が窓越しに外を眺めると、天から巨大な火の玉が降って来た。それは、5年振りに自分の息子が地球に帰還してきた事を意味していた・・・。
このシーンを映画の画面としてどう表現するか(カメラに収めるか)?。
画面的な位置関係は下の図の通りである。
もちろん、この構図のままでは映画には出てこない。この図を元に、どこにカメラを置いて、どう撮影するか、カメラワークが演出の腕の見せ所である。
ただ撮影すればいいというものではない。巨大火の玉が降って来る非現実感、驚く母親、そして息子が帰って来たという感情の揺れまで表現しなければならない。
それでは、いくつかサンプルを挙げて説明しよう。
オーソドックスな表現としては「窓越しに外を眺める母親のアップ」「天から降ってくる巨大な火の玉」と、2カットで繋げていくやり方だ。しかしこれでは表現は出来ていても、とってつけてきたような感じで安直で面白くない。もっと面白く見せるためには、工夫(演出)が必要だ。
(ここで使われている画面は、著作権上の問題があるかもしれないので、、何の参考資料も無しに、僕が映画を観てうろ覚えのままで描いています。また、映画に登場しない構図の絵もあります。現物と違いのあるところはご了承してください^^;)。
特撮モノならではの画面演出として、「現実的なものと非現実的なものを同じフレームに収める」というのがある。
これは、同一画面に収める事で非現実的なものを「目の前で起きている事実である」というリアリティを出す演出だ。
最初に挙げた例に比べれば、巨大な火の玉が降っている感じはより出ている。しかも対象物を並べる事により、火の玉の巨大さも表現できる。これは巨大ヒーロー物や怪獣映画によく使われるテクニックだ。
だがこれは、リアリティこそ出るものの、構図的に面白くない。次の例は、ちょっと例題とはズレるが、「同一画面に収める」という形で構図を工夫してみた。
母親が家の外に出てしまっているので反則ではあるけれど、構図的には迫力は出ていると思う。最近の特撮映画はCG技術なども向上しているので、こういう画面も容易(?手間はかかるのかもしれないけど^^;)に作る事が出来る。迫力とリアリティが出るので、こういう画面構成する特撮映画も少なくない。
しかしこの画面では位置関係の都合上、役者の表情が見えない。せいぜい工夫しても斜め後ろとか、がんばっても横顔でしか表情を出す事が出来ない。1つ前の窓越しの画面も同様だ。母親の表情を出すには、この画面のあとに正面向きのアップ画面が必要だ。つまり、2カットで表現する事になる。
しかし「スーパーマンリターンズ」では、これらの条件を、なんと1カットで表現しているのだ!。
これが、その画面だ。
窓越しに外を眺める母親のアップ、そして窓ガラスには巨大な火の玉が降ってくる様子が映りこんでいる。
火の玉と母親の正面顔、両者は互いに正反対の位置関係にあるものの、見事に同一画面に収まっている。しかも火の玉自身は特撮であるにもかかわらず、画面的に不自然さが無いように仕上がっている。
ガラスに映りこんだ火の玉は、文字通り母親の脳裏をかすめるようにゆっくりと落ちていく。その間、色々な想いが交錯するように母親の表情が微妙に揺れている。
一見、地味な画面ではあるが、母親の心情を見事に表現した珠玉の1カットだ。
ガラス窓に火の玉が映りこんでいる事で生まれる利点が3つある。
1つは、映りこんだ像がピンボケになって、作り物である火の玉の粗が見えにくくなる事。
2つめは、像のボケ具合が、記憶の中の映像のようにオーバーラップの効果が出ている事。
3つめは、火の玉をボカす事によって、母親の表情に焦点が合っている事だ。
特撮映画にありがちな事では、こういう画面の場合は大抵、火の玉に焦点が合う方が多い。どうしても技術を「売り」にする傾向があるからだ。しかし「スーパーマンリターンズ」では、母親の表情、つまり「キャラクターの心理描写」の方に焦点を当てている。
アピールの強さが売りのハリウッド映画、しかも特撮映画なのに、この「奥ゆかしい演出」は一体何なんだろう!?(^^;)。
「奥ゆかしさ」は画面上だけではない。物語の展開、台詞回しなども、意図的に直接表現をしない事が多い。しかし直接表現しない事で、より対象物の本質的なところが強調されて表現されている。どのシーンかは説明しないけど、この映画はそういう演出がふんだんに盛りこまれている。これから観る人はそれを探すのも楽しいかもしれない。
僕はまだ観ていないけど、新作「日本沈没」を観た感想で、「特撮は凄かったけど、内容がちょっと・・」というのが多かった。監督が「特撮技術のプロ出身」ということもあるが、これは前に書いた「奥ゆかしい演出」が無かったという事なのだろうか・・・?(^^;)。
「スーパーマンリターンズ」は確かに「面白かった」。だが「面白かった」の一言だけでは片付けられないほどの「作り手の心配り」の深さをヒシヒシと感じた。
物書きをする人間にとってはとても勉強になると共に、もの凄く反省させられた映画だった(^^;)。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |